クレメン・ピスク

詩人、作家、翻訳、音楽家

 かたつむり

そして彼は、茂みの奥でネバネバしたかたつむりを指さしていた。ものすごく大きい。
「ごちそうだぞ!」彼は叫んで、焼くためにかまどの準備を始めた。
かまどの火はギリギリ、パチパチ、さえずるような音を立て、
彼はそれをずっと見つめていた。
彼はでんでん虫と語呂の合う言葉を探していた。
思いついた。「てんでん!てんでん!」彼は叫んだ。
そんな言葉は聞いたことがないので、どういう意味かきいてみた。
「ははっ、知らないのか。おかしいのは僕じゃなくてお前だよ!
ははっ、てんでんって、てんでんバラバラのてんでんじゃないか」。
彼はかたつむり ―イノシシほども大きな― のところへかけて行き
それが死ぬまで、柔らかくなるように硬い岩に打ちつけた。
かわいそうなかたつむり! ついこの間見たばかりなのに。
近くの丘で、ミツバチたちに交じって、苦い草をついばんでいたところを。

千春岩切訳

ビートルズ

僕はあの場所を歩き回って、
彼らが残していったものたちに触れていく。
ギターはちょっと崩れた形をしていて
どうもこのギターの持ち主が左利き用にできている。
僕も左利きだから分かるけど、僕のギターは普通に左右対称だけど、
このギターはちゃんと左利きの人に使いやすい特別な形をしている。
おそらく、ちゃんと職人に注文して作らせたのだろう。
弦架(こま)はちょっと場所をずらした方が使いやすかったのだろうか?
僕はひとりつぶやく。
きっと彼には馴染みのイギリスの職人がいて、そして
そこでこのギターを作らせたのだろう。
そして、僕はさらに奥へと進んでいく。
入っていくと、その部屋は湿っぽくて、狭苦しい。
部屋の隅には、ジョンが残して行ったインドのシタールが立てかけてある。
この楽器は、独特の音階でメロディーをつむぎ出すので、
だから半音より細かい4分の1の音の差も表現できる。
こんなに繊細な音は、人間の耳で聞き分けられないほど微妙らしい。
さらに行くと、次の部屋があった。
そこには半分吸いかけのマリファナの吸殻があった。
多分、リンゴの吸殻だと思うけど、でもなんとなく
僕にはジョンが吸った跡みたいに思えた。

東千代子訳

それから

彼女は、チョコが欲しいと言った。
それから、チョコは持っていないと、僕は言った。
それから、わたしのためにがんばってくれてもいいじゃない、と彼女は言った。
それから、もっと他に賢いことができるじゃないか、と僕は言った。
それから、チョコを食べる以外には思いつかないわ、と彼女は言った。
それから、ばかだな、と僕は言った。
それから、家に帰るわ、と彼女は言った。
それから、彼女は家に帰った。
それから、僕はチョコを買い、彼女に追いついた。
それから、僕は彼女の口にチョコを押し込んだ。
それから、“食べるんでしょ?”と僕は聞いた。
それから、彼女は黙りこんだ。
彼女の口にはチョコがたくさん詰まっていたから。

えり子鈴木訳

隠者とオオカミ

ある隠者が砂上に線を引きこう言った、
「この線を越えてはならんよ」。
続けて隠者は円を描き、こう述べた、
「この円から出てはいかん。
円を横断するのはいいが、その線を越えてはいかんよ」。
それから大嵐がやって来て、線が消えてしまった。
円にたたずんでいたのは一匹のオオカミ。
冷たい雨でオオカミはくたくたになっていたが、
動こうとはしなかった。オオカミはただ、
その線がまだ存在しているのかどうかがわからなかった。
線はとっくに、砂上から消えているのに。

翻訳・ながの ひろゆき